ホロヴィッツというピアニスト
比較のしようがないのだが、多分これがベスト盤と言える、チャイコフスキーのコンチェルトの一番
(こう書くとイコールピアノコンチェルトの話になる)は、ホロヴィッツが残したものである。
何と比較出来ないかというと今手元にある一枚がベストなのだが、トスカニーニと共演しているものも
勿論素晴らしい出来なのだが、所持していないため、聴いて比べることが今は出来ないからである。
記憶の中をたどっても、やはり、これがベストというのは、ジョージ・セル、ニューヨークフィルとの
録音だ。
比較的早めのテンポで始まるこの演奏は、出だしのホロヴィッツのすさまじいまでのヴィルティオーゾ
っぷりで瞠目するのだが、セルの指揮もまた大変に優れているうえ、両者の間に火花が散っているかの
ような、緊迫感と、ソリストとオケのぶつかり合いがまた見事なのだ。
こんなテンポで良くまあここまでやれるなあ、と呆れてしまうような、ホロヴィッツの両手での派手な
和音の連続、分散和音の表現しがたい繊細で美しい内声部から外声部への流れかた、旋律を弾く時の
見事なまでの音の素晴らしさ。
第一楽章で、息を飲んで聴いているうち、次の静かな、しかしなにかをはらんでいるような第二楽章が
奏され、間をおかずに勢いよく第三楽章に進む。
あとはいわずもがなだ。そして初めて聴いた時、本当に驚いたのは、この演奏が、ライヴ録音であった
という事実だ。観客の狂喜のような拍手が入っているのである。
スタジオ録音だと信じて疑わないほど、精度の高い、完成度の非常に高い演奏であったので、これを
コンサートでやってのけたのか、この人たちは…という驚きに包まれた。
どれだけのものかは…やはり聴いて頂くしかない。
私はチャイコフスキーの熱烈な賛美者ではない。でもこの録音を聴くと、優れた作曲家だったのかな、
と思う。
曲を変容させてしまうかのごとき演奏をする。ホロヴィッツの怖さであり、彼を彼たらしめている
ひとつの要素かと思う。