ピアノの練習時間-中学時代の巻

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楽器をやっているひとなら少なからずそうではないかと思うのだが、他人の練習時間と

いうのは案外気になる所ではないだろうか。

私は自分が楽器を始めたのが、普通の場合より遅かったので、譜面は読めたし

指は動きはしたものの、「基礎から叩きなおされた」口である。

音楽専門の高校を目指し、それは結果であって、たまたま巡り合った

師が、音大の当時助教授(今なら準教授と呼ぶのだが)でいらしたことから、そう

あいなったのではあるが、大げさでなく、いばらの道を歩んだ感がある。

そんな私の中学時代は、ピアノの練習中心の生活であった。

ただでさえ出来が良くはないので、精一杯の練習以外に上達の道はないので

ある。

中学は公立で、徒歩10分あまりの所だったから、通学時間にそれほど時間は

取られなかった。

昼間は学校で、帰宅後軽くおやつを食べて練習。だいたい午後

三時半から四時くらいまでに始めて、六時に入浴、夕飯。そして

七時から練習再開。近所のこともあり、十時までは弾けるのだが、

それ以降は練習出来ないので、この三時間が勝負である。

早朝も音を出せない。だから大体、一日、五時間くらいしか練習出来なかった。

少ない方だったとあとで知ることになったのは、音楽高校に入学してからである。

母校は、高校から大学までの生徒の為の寮がある学校だった。

その寮生の話であるのだが、私のクラスに練習時間が並でない生徒がいた。

勿論どの楽器の生徒も、それぞれかなりの練習量だったのだが、群を抜いていたようだ。

その彼女の隣の部屋の生徒の嘆きの声である。

朝、もう少し寝ていようと思うんだけど、お隣がさ…六時からスケールの練習始めるから

寝てられないのよ…

スケールというのは音階のことである。指慣らしにスケールやアルペジョを全調性弾く

生徒は結構多いと思うが、朝六時からの(規則で六時から練習出来る)みっちりした

練習に隣の生徒は閉口していたようだ。10分でも余分に寝ていたい、そんな

こともあるから、早く部屋替えしないかなあと言っていたのを覚えている。

何時まで練習出来たか、記憶が定かでないが、多分10時くらいまでだと思う。

ある日、その練習魔の彼女が、食事の時間以外(食事時間はトータル二時間弱くらい

だったそうな)一日中練習していたという。つまり、14時間くらいは弾いていたことになる。

それを数日やっていたそうだ。授業のない日だったから可能なことではある。

長く練習すれば良いというものではない、とはいうものの、出来の良い生徒であることは

一学年百名未満の学校では知れ渡るので、○○さんて努力家よね、と皆言っていた。

自分の中学時代に話を戻すと、平日が五時間くらい、土曜は音楽理論などを習いに行って

いたため、学校から帰って少しだけ練習して、夕方からの勉強のため、これは電車で通って

いたので、帰宅後は殆ど練習は出来ずで合わせて二時間くらいだった。

そして翌日曜日は、恐怖のレッスンの日である。毎週日曜日の午前の一時間は、週の中で一番

緊張する時間であった。先生宅までのバスと電車の中での心持は、「ドナドナドーナードーナー」

という、悲しいメロディーで表せると言えばおわかり頂けるだろうか。

そして一時間。レッスンが終わったあとの解放感。これは何物にも代えがたい、至福の時であった。

そこで気持ちを引き締めて、すぐ帰宅して練習するのが正しい道なのかもしれないが、数時間、

町なかで過ごして、気持ちをほぐした。

今では懐かしい思い出である。

そしてあのころが、ある意味では幸せであったのだと、今のわたしは知っている。

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